朝ごはんを通して世界を知る
世界各国の朝ごはんを提供しているレストラン「WORLD BREAKFAST ALLDAY」のオーナー・木村さんが教えてくれたのは、朝食を通して見えてくる国ごとのライフスタイル。さまざまな国の文化を「舌」で感じてきた木村さんが考える、豊かな暮らしとは?
朝食には、その国の文化が詰まっている
ヨルダン、ベトナム、フィンランド、ブルガリア、インド、クロアチア、ブラジル、スペイン……などなど。イギリスとスイスの朝食を定番で扱うほか、「WORLD BREAKFAST ALLDAY」では、2ヶ月ごとにさまざまな国の朝食を楽しめます。
日本なら朝食の定番は「ごはんとみそ汁」ですよね。忙しい時間帯に調理するから、食材は手に入りやすく、毎日食べても飽きない献立になっている。朝食って、その国の文化がよく表れるんですよ。たとえば、以前、ブラジル人に何を食べているのかたずねたら「サンドイッチ」と言うので、あまりに普通すぎてウチでは扱えないと思ったんです。でも、よくよく調べてみると、ブラジルの街には必ず「パダリア」というお店があって、そこで毎朝、焼きたてパンと切り売りのハムを買っていることがわかって。そういう国ごとの文化が、朝食には凝縮されているんです。
ちなみに、今までで一番印象に残っているのは、ペルーの朝食として一般的なトウモロコシでできたちまき「タマル」。最初はあんまり……と思っていたのに、食べているうちにだんだんおいしさを感じるようになっていったそう。外国人が梅干しや納豆が苦手なのと同じで、最初は受け入れづらくても、次第に特徴的な匂いや見た目の奥にあるおいしさに気づいてやみつきになるのだとか。
食は世界共通のコミュニケーション言語
海外の朝食に興味を持つようになった出発点は、さかのぼれば「書院造」という日本の建築様式を学んだことにある、と木村さん。大学院を出たあと、古い建物を残しつつ新しいものを取り入れるヨーロッパの文化を日本にとの思いから、「日光イン」という宿泊施設をスタート。そして、そこで出会った外国人客との、こんなやりとりがきっかけになったそうです。
宿泊したお客さんの国のことを知りたいと思って話しかけても、自国の文化って、やっぱり説明しづらいんですよね。それは僕自身もそう。でも、ある日、フランス人のお客さんとお寿司を食べながら話をしたら、すごく日本のことを説明しやすかったし、相手も「フランスでは、海苔のような黒いものは食べない」とか面白い話をしてくれて。それから「どんな国ですか?」ではなく、「どんなものを食べてますか?」と聞くようになったんです。
「書院造」は、いわば日本人が過ごしやすい室内環境の集大成。同じように、朝食もその国の人にとって最適な食事内容が極められている。そういう「型」が、世界を知るためのキーワードになる、と木村さん。
ごはんって、どんな人でも毎日必ず食べるもの。「あなたの国の建築やファッションについて教えて」と聞かれると困るけれど、食事についてなら誰でもちゃんと答えてくれるんです。コミュニケーションもとりやすいし、僕にとっては「朝ごはん」が世界の文化を伝えるツールになったんです。
受け継がれてきた「日本らしさ」で気持ちいい生活を
各国の朝食をプロジェクターで映しながら、次々と紹介していく木村さん。参加者のみなさんとの質疑応答のあとには、司会者からの「よりよい暮らしって?」という質問が。
パリで、仕事が終わったあと焼きたてのバゲットを買って帰る人々の姿を見て、すごく豊かだなって感じたんです。そのパン屋、日本でいえば昔ながらの八百屋みたいなもの。そういう生活に憧れますけど、僕はフランス人じゃないから(笑)、日本らしい暮らしの中で、確かなものを重ねていきたい。スーパーよりも魚屋のほうがおいしい魚が買えたりするでしょう、そういう昔ながらのお店や文化をうまく使いながら、生活していきたいですね。
木村 顕(WORLD BREAKFAST ALLDAY)
青山と千駄ヶ谷を結ぶ外苑西通り、通称“キラー通り”で「世界の朝ごはんを一日中楽しむ」をテーマに、2ヶ月ごとに世界各国の伝統的な朝ごはんを提供するレストラン「WORLD BREAKFAST ALLDAY(ワールド・ブレックファスト・オールデイ)」を運営。 昨年スペースシャワーブックスから『WORLD BREAKFAST ALLDAYの世界の朝ごはん』という書籍をリリース。日光市で日本の伝統的な家に泊まる宿泊施設「日光イン」も運営する。